生成AI時代の情報漏洩リスクとは?巧妙化するサイバー攻撃から企業が知っておきたい5つの情報漏洩リスクと対策
生成AIは、偽メールや偽の指示を自然で説得力のあるものにし、認証情報や機密情報を狙う攻撃を高品質化・高速化しています。同時に、自社の生成AI利用そのものが新たな漏洩経路にもなり得ます。対策の中心は、多要素認証、アクセス権の最小化、AI利用ルール、委託先管理といった基本の徹底です。まずは自社の「守るべき情報」の把握から始めましょう。
生成AI時代の情報漏洩リスクとは?定義と全体像
生成AI時代の情報漏洩リスクとは、生成AIを悪用した攻撃で情報が盗まれるリスクと、生成AIの利用によって情報が意図せず外部に出てしまうリスクの両方を指します。
AIが新種のウイルスというわけではなく、既存の攻撃手法をAIが強化している点がポイントです。
- 攻撃の高度化:自然な日本語の偽メールや、担当者を装った文面で、ID・パスワードなどの認証情報を盗む
- 人を介した漏洩:音声・映像のなりすましで、担当者から情報を聞き出す
- 利用に伴う漏洩:従業員が機密情報を生成AIに入力し、社外へ流出する
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向け脅威の1位が「ランサム攻撃による被害」、2位が「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」、3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初選出されました。情報漏洩に直結する脅威が上位に並んでいます。
AI時代に情報漏洩の仕方はどう変化しているのか?
東京商工リサーチの調査によると、2025年の上場企業の個人情報漏洩・紛失事故は180件、漏洩人数は約3,064万人(前年比93.1%増)でした。100万人以上の大型事故が6件あり、被害の大型化が目立ちます。原因はウイルス感染・不正アクセスが116件(64.4%)で最多、次いで誤表示・誤送信が37件(20.5%)でした。
なお、この統計は原因としてAIの関与を区別したものではありません。ただし、不正アクセスが最大の要因であることから、侵入の入口を高度化させるAI悪用への備えは重要です。
| 比較観点 | 従来型の情報漏洩 | 生成AI時代の情報漏洩 |
侵入の入り口 | 不自然な偽メールに気づけることがあった | 自然な文面で認証情報を盗む手口が増加 |
標的への最適化 | 手作業で限定的 | 公開情報から個別化した攻撃を大量に作成 |
人からの聞き出し | 電話や文面中心 | 音声・映像のなりすましも加わる |
内部要因 | 誤送信・持ち出しが中心 | 生成AIへの機密情報入力が新たな要因に |
被害の広まり | 自社システム内にとどまりやすい | 委託先やクラウドサービスなど社外の侵害を起点に、自社の情報 |
有効な対策の軸 | 境界防御と利用者の注意力 | 認証強化・権限管理・ルールの仕組み化 |
企業が注意すべき5つの情報漏洩リスク
1. 認証情報を狙うフィッシングの高度化
漏洩の入口で多いのが、盗まれたIDとパスワードによる不正ログインです。生成AIにより偽メールや偽サイトの品質が上がり、「違和感」だけでは見抜きにくくなっています。
- パスワードだけに頼らず、多要素認証(MFA)を標準にする
- 利用者の注意力に依存せず、不審なログインを検知できる仕組みを整える
2. ディープフェイクなど「人」から情報を引き出す手口
上司や取引先になりすまし、機密情報の送付や権限付与を求める手口です。声や顔だけでは本人確認になりません。
- 情報の送付や権限変更は、別経路(既知の連絡先)で確認する
- 緊急性をあおる依頼ほど、承認手順を省略しない
3. 脆弱性悪用とデータ窃取型ランサムウェア
近年のランサムウェアは、データを暗号化するだけでなく、事前に盗み出して公開すると脅す手口が広がっています。AIによる調査・攻撃準備の効率化も指摘されており、脆弱性の放置は大きなリスクです。
- VPN機器やサーバーなど外部公開資産を棚卸しする
- 修正プログラムの適用期限を決め、重要情報はバックアップと分離する
4. 生成AIの利用そのものが漏洩経路になる
- 機密情報の入力:顧客情報、ソースコード、未公開資料などの入力
- シャドーAI:会社が把握しない個人利用の生成AIの広がり
- プロンプトインジェクション:悪意ある指示を紛れ込ませ、AIに情報を出力させる攻撃
- 連携機能の権限過多:AIが社内データに過剰にアクセスできる設定
5. 委託先・サプライチェーン経由の漏洩
自社が堅牢でも、委託先やクラウドサービスから情報が漏れるケースがあります。
- 委託先に渡す情報の範囲と保管場所を把握する
- 契約時にセキュリティ要件と事故時の連絡ルールを定める
対策のメリット―基本の徹底で被害を最小化する
- 漏洩の入口を減らせる:
多要素認証と権限管理で、認証情報が盗まれても被害に至りにくい - 被害の拡大を抑えられる:
最小権限とログ監視で、侵入後の情報持ち出しを早期に検知できる - AI活用を前に進められる:
利用ルールが整うことで、安心して業務に生成AIを導入できる - 信頼と法対応の備えになる:
個人情報の漏えい等が発生した際の報告・対応を迅速に行える
対策する上での留意点
- 運用負荷の増加:
認証や承認の追加で、業務の手間が増える - 利便性とのバランス:
AI利用を厳しく制限しすぎると、シャドーAIを誘発する - コスト・人材の不足:
専門人材や予算の確保が課題になりやすい - 完全な防止は困難:
漏洩は起こり得る前提で、検知と初動まで備える必要がある
無理なく進める情報漏洩対策の手順
デメリットや留意点を踏まえ、重要度の高いものから段階的に進めます。
ステップ1:守る情報の棚卸し
個人情報・設計情報・顧客情報がどこにあるかを整理する。(範囲を絞って始めることで負荷を抑える。)
ステップ2:入口対策の優先実施
多要素認証、パスワード管理、修正プログラム適用を最優先にする。
ステップ3:権限の見直し
「必要な人に必要な範囲だけ」へ絞り、不要なアカウントを整理する。
ステップ4:AI利用ルールの策定と教育
入力してよい情報を明確にし、禁止だけでなく安全な使い方を示す。
知見が不足する場合は、AI活用やセキュリティを扱う外部のエンジニア向け研修を活用する方法もあります。
ステップ5:検知と初動の準備
ログ監視と連絡体制を整える。
個人情報の漏えい等が発生した場合は、要件に該当すれば個人情報保護委員会への速報・確報が必要となるため、手順を事前に確認しておく。
事例:国内の製造業における想定ケース
以下は公開情報を踏まえた一般的なケースであり、特定企業の事例ではありません。
【状況】
国内の製造業A社(従業員約500名)で、取引先を装う自然な文面のメールにより、設計部門の担当者がクラウドストレージのIDとパスワードを入力してしまいました。
【対応前の想定】
パスワードのみの認証のため、攻撃者が不正ログインし、図面データや取引先情報が大量に持ち出されるおそれがありました。
【見直し後】
多要素認証、部門ごとのアクセス権の最小化、大量ダウンロードの検知アラートを導入しました。
【結果】
認証情報が盗まれても、追加認証の段階でログインを防げました。仮に突破されても、アラートで早期に気づける体制になりました。
まとめ
生成AIで攻撃が巧妙化しても、情報漏洩を防ぐ基本は変わりません。今週から取り組める3点をご紹介します。
- 重要システムの多要素認証の有効化状況を確認する
- 自社で守るべき情報と、その保管場所を洗い出す
- 生成AIに入力してよい情報の範囲を決め、周知する
AIは脅威であると同時に、防御や業務効率化を後押しする強力な味方でもあります。基礎を固めた企業ほど、安心してAIを活用できます。小さな一歩から始めてみましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 情報漏洩の主な原因は何ですか?
A. 東京商工リサーチの2025年調査では、ウイルス感染・不正アクセスが約64%で最多でした。
Q2. 生成AIで情報漏洩の攻撃は増えていますか?
A. 統計上、AIの関与を区別した公的データは限られます。攻撃の高度化が指摘されており、備えが推奨されています。
Q3. 社員が生成AIに情報を入力すると漏洩しますか?
A. サービスの設定や契約によって異なります。入力データの取り扱いを確認し、機密情報は入力しない運用が基本です。
Q4. 生成AIの利用は禁止すべきですか?
A. 全面禁止はシャドーAIを招きやすく、入力可否のルール化が現実的です。
Q5. 最初に取り組むべき対策は何ですか?
A. 多要素認証、修正プログラムの適用、アクセス権の見直しの3つです。
Q6. 中小企業も狙われますか?
A. 狙われます。取引先経由の侵入もあるため、規模を問わず対策が必要です。
Q7. 誤送信などの人為ミスは対策できますか?
A. 宛先確認の仕組みや添付ファイルの暗号化など、システムで防ぐ対策が有効です。
Q8. 漏洩が起きたら最初に何をしますか?
A. 被害端末のネットワーク遮断、責任者への報告、証拠となるログの保全を行います。
Q9. 法律上の報告義務はありますか?
A. 個人情報保護法で、一定の要件に該当する漏えい等は個人情報保護委員会への報告と本人通知が必要です。詳細は専門家や公式情報で確認してください。
Q10. 委託先の管理は何から始めますか?
A. 渡している情報の範囲を把握し、契約でセキュリティ要件と事故時の連絡ルールを定めます。
関連用語解説
- フィッシング:
実在の組織を装い、偽サイトへ誘導してID・パスワードなどを盗む手口 - 多要素認証(MFA):
パスワードに加え、スマホ認証など複数の要素で本人確認する方式 - ディープフェイク:
AIで生成・加工した、本物そっくりの音声・映像 - ランサムウェア:
データを暗号化し、復旧と引き換えに金銭を要求するマルウェア。データを盗んで公開を迫る手口もある - シャドーAI:
会社が把握・許可していない従業員の生成AI利用 - プロンプトインジェクション:
AIへの指示に悪意ある命令を紛れ込ませ、動作を操る攻撃 - サプライチェーン攻撃:
取引先や委託先の弱点を突いて、本命の企業へ侵入する攻撃 - 最小権限の原則:
業務に必要な最小限の権限だけを付与する考え方