アジャイル開発へのシフトに向けた社内文化の変革

~DevOpsの学びがもたらす開発現場のマインドチェンジ~

アサヒグループのITパートナーとして、営業・販売・生産・物流などのシステム開発から運用までをワンストップで手がけるアサヒビジネスソリューションズ株式会社(以下、NAiS※)。同社は各事業会社の要望にスピーディに応えるアジャイル開発へのシフトに向けて、2022年6月と7月にSB C&S株式会社が提供する短期教育プログラム「DevOps-ABC」を受講。このプログラムを通じて、開発チームと運用チームが連携するDevOpsの基礎を学んだ参加者は、すでに現場での実践を開始し、開発文化の変革が組織全体で加速しています。

DevOps Agile BootCampの略称であるDevOps-ABCは、SB C&Sとヴイエムウェア株式会社が共同で企画し、カサレアルも開発に参画した教育プログラムです。5日間のプログラムのうち、カサレアルは3日目から5日目にかけて実施する「全体像から理解するクラウドネイティブ基礎」と「Kubernetesにおける運用基本操作」を担当しています。今回は研修企画の担当者様と受講者様に、受講までの経緯と研修から得た気づきについてお話をうかがいました。

※NAiS(NEO ASAHI BUSINESS SOLUTIONS)は、アサヒグループ内における同社の通称です。

お話を伺った方

【DevOps研修の企画者】
技監
上條 真史 さん
【DevOps研修の受講者】
品質マネジメント部
兼 ソリューション第1本部
開発第1統括部 第5グループ
塩田 弘毅 さん
【DevOps研修の受講者】
ソリューション第1本部
開発第2統括部
内田 一樹 さん

目次

アジャイル開発へのシフトに向けたDevOpsの導入

1989年にアサヒビールの情報システム部門から独立して以来、アサヒグループ全体のIT戦略を幅広く支援するNAiS。アサヒグループは現在、中長期経営計画のコア戦略として「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の取り組みを「ビジネストランスフォーメーション(BX)」と捉え、3つの領域(プロセス、組織、ビジネスモデル)におけるイノベーションを推進しています。こうしたグループのDX戦略の中で、ITインフラを中心とした後方支援の役割を担うNAiSは、なぜDevOpsの概念を学ぶことにしたのでしょうか。

DevOps-ABCを受講する前の課題認識についてお聞かせください。

NAiSでは、グループのDXを支援するために2020年から少数精鋭の体制でクラウドシフトを進めてきました。その後、2022年4月には取り組みの中核となる社内横断組織(CoE)を立ち上げ、社内から人材を募りながら、現在は約40名の体制でチームを運営しています。

しかし、CoEを立ち上げたものの、アプリケーション開発は従来のウォーターフォール型が主流で、モノリシックなレガシーシステムのままでは保守運用にコストがかかり、変化に対して柔軟に対応することができません。そこで、将来にわたってグループ各社の要望に応えていく上で不可欠だと判断したのが、DevOpsを社内の開発文化に取り入れることによるアジャイル開発へのシフトでした。

上條さん

DevOps-ABCの受講を決めたのは、このプログラムのどのような点を評価したからですか?

私たちの組織にはDevOpsのノウハウがありませんので、まずはDevOpsの概念を正しく理解することから始めようと、取引先のパートナー各社に相談したところ、ヴイエムウェアからSB C&Sの「DevOps-ABC」を紹介されました。他のパートナーからは個別の研修やコンサルティングの提案もありましたが、「アジャイル開発に不可欠な「People(組織・人材)」「Process(業務の仕組み・手法)」「Technology(技術)」について、トータルで学べる点は大きなポイントでした。マインドセットの変革を学ぶ座学から、実践的な開発手法を学ぶハンズオンまで、変化対応力を高めるためのプログラムが網羅されていたのはDevOps-ABCだけでした。

上條さん

参加メンバーはどのようにして選抜したのでしょうか?

推奨受講人数が10名ということでしたので、まずCoEのメンバーから希望を募ったところ、私を含めて7名が集まりました。その後、CoEのメンバー以外の3名が手を挙げたため、合計10名で参加することにしました。年齢は30代を中心に20代から50代まで幅広く、担当する業務領域も開発、サポート、マネジメントなどバランスがとれたメンバー構成になったと思います。

上條さん

開発部門の塩田さんと内田さんは、どのような動機で参加されたのですか?

私自身、アプリケーション開発からその後の運用まで一通りの経験があり、実務でもDevOpsのことは意識していました。しかし、開発したアプリケーションを運用チームに引き継いだ後、機能追加の際に高い壁があることを実感していましたので、その解決策を探るためにDevOpsを理解したいと考えました。

塩田さん

DevOpsについては漠然とした知識はあったものの、実務で経験したことがなかったため、まずはDevOpsの理解を深めてから自分のプロジェクトで展開してみたいと思って参加しました。

内田さん

ハンズオンでクラウドネイティブの基礎を習得

DevOps-ABCで提供される5日間の教育プログラムのうち、カサレアルが担当したのは、3日目と4日目の2日間で行う「全体像から理解するクラウドネイティブ基礎」と、5日目の「Kubernetesにおける運用基本操作」の2つのプログラムです。

「全体像から理解するクラウドネイティブ基礎」(3日目と4日目)

クラウドサービス上でクラウドネイティブを段階的に導入していく方法を、ハンズオンを織り交ぜながら体験していきます。その過程で、基本的なツールの操作、DockerコンテナやKubernetesサービスの作成・連携、管理のための環境設定方法、CI/CDツールを利用したプロセスの自動化について学びます。

「Kubernetesにおける運用基本操作」(5日目)

Kubernetesでの運用を中心に、クラウドネイティブなシステムの基本的な運用操作や、クラウドネイティブの重要な技術領域であるサービスメッシュやランタイム時のコンテナセキュリティなどについて、ハンズオンを通して学びます。

DevOps-ABCを受講してみた率直な感想をお聞かせください。

座学の研修形式でしたが、実際にAmazon Web Services(AWS)のクラウド環境を使って、サービスの使い方、ポータルの見方などを教えてもらい、簡単なWebページを作成したり、ファイルサーバーを構築したりしました。そこから、ハンズオン形式でKubernetesによるコンテナの管理手法も学びました。全体的にDevOpsの初歩的な概念を学ぶ内容が多かったと思います。

塩田さん

受講メンバーはAWSやコンテナの利用は初めてだったのでしょうか。

AWS上での開発経験者は数名いましたが、まったくの初心者もいました。AWSの経験者の中でも、コンテナの開発・運用経験者はいませんでした。

内田さん

難易度はいかがでしたか。

1人でゼロからやれと言われたら難しかったと思いますが、手順書のようなものが用意されていたので、コンテナの作成から運用、CI/CDによるプロセスの自動化など、基本的な操作はスムーズに習得することができたと思います。普通の技術レベルがあれば、多くの人が理解できるのではないかという印象を持ちました。

内田さん

長くアプリケーション開発の現場から離れている私の場合、最初は苦労したものの、分かりやすいカリキュラムで脱落することはありませんでした。ハンズオンは講師の方が2人1組で対応され、サポート体制もしっかりしていて取り組みやすかったです。

上條さん

研修の受講は対面とオンラインの選択肢がありますが、今回はカサレアルのトレーニングセンターに集まって受講されました。

朝から夕方まで、フルタイムで研修に集中したかったからです。オンラインの場合、どうしても日常的な業務が割り込んできてしまいます。業務を完全に遮断するためにも対面研修を選びました。また当社の場合、セキュリティの関係で業務用のパソコンを社外に持ち出すことができません。研修用のパソコンもカサレアルさんに用意していただけたこともあって、業務から完全に離れて研修に集中することができました。

上條さん

すべての参加者が「何かしらの気づきがあった」と回答

研修終了後、担当講師とさまざまな気づきを話し合う「ラップアップミーティング」を経て、プログラムは終了しました。後日、10人の参加者に対して実施したアンケートでは、次のような回答が寄せられました。(※受講者アンケートより抜粋)

研修から得た1番の学びは何ですか?
  • コンテナの概念や代表的なサービスについて学ぶことができた
  • 実際に手を動かしながら、ツールの使い方を理解することができた
  • コンテナ開発を行う上で必要なサービスの組み合わせが理解できた
  • Kubernetesの仕組みを理解することができた
  • Docker Composeを用いた開発とKubernetesでの運用・監視が体験できた
  • コンテナ技術に触れ、業務にどう反映できるかの知見が得られた
他のメンバーにも受講を勧めたいと思いますか
  • ディスカッションを通じて考えることで、一体感と気づきを得られる
  • 組織のマインドチェンジを進めるために必要なことを考えることができる
  • 全体の概要が理解しやすく、より詳細が知りたくなるトレーニングになっている
現在担当している開発・運用案件での課題はありますか?
  • 従来の開発手法では、どうしても工数やコストが高くなる
  • テストを自動化して開発業務を効率化したい
  • モダン開発に対する理解不足、スキル不足に対する啓蒙が必要
  • 社内におけるクラウド技術に対する知識・技術レベルを底上げしたい
  • マイクロサービスの設計・開発・運用を担当できる人材を育てたい
  • システム変更のリードタイムが長いため、テスト・デプロイを短縮したい
  • レガシーシステムの運用とEOSL対応(もしくは再構築)を検討したい
今後のDevOps導入についてはどう考えていますか?
  • 全社でモダナイズを進める上で、開発・運用の手法として必要
  • グループ内でコンテナの適用を検討する機会が増えている
  • 実務に対応したとき、どのような領域で活用ができるのか考えていきたい
  • マイクロサービス化することで、業務停止を避けることができる
  • レガシーシステムの運用が多いこともあり、再構築の際にDevOpsを導入することでどれだけの恩恵が得られるかを検討したい

研修を受けてみて、どのような気づきが得られましたか?

開発後の運用を効率的に行うためには、開発の段階から運用のことを考慮する必要があることを改めて認識しました。また、運用・監視において、モニタリングツールがあることで効率化できることが理解できました。

内田さん

パーツを組み立てるだけで、さまざまな動きが実現できることが理解できました。CI/CDによる自動化についても、開発や運用を効率化するためには必要であることを認識することができました。

上條さん

研修で得た気づきを開発の現場にフィードバック

5日間の研修を終えて約半年。研修での学びは、受講者それぞれの現場の業務でも役立っています。

研修での学びは、現場の業務においてどのように役立っていますか?

DevOpsの基礎だけでなく、組織とは、チームとは、プロジェクトとはと、日常の業務では考えたことがなかったことを振り返る機会を得て、開発現場における自分自身の役割を考え直すきっかけとなりました。

塩田さん

日常の業務では個人プレーで働くことが多い中で、メンバーと一緒に考えること、提案型で仕事を進めていくこと、成果物を残していくことの重要性を認識しました。開発現場に戻ってからは、上流工程からメンバーと積極的にコミュニケーションを取ることを心掛け、計画工程に注力するように意識が変わりました。

内田さん

CoEチーム全体としても、横の連携を意識して情報を共有し、みんなで会話しながら課題に取り組むようになり、社内の文化や組織に変化が見られるようになりました。

上條さん

今後の展望をお聞かせください。

受講後のアンケートでも、参加者のほとんどがDevOpsの社内導入を検討したいと回答していますし、実際の開発・運用案件でも課題がありますので、積極的にDevOpsを取り入れていきたいと思います。

上條さん

5日間の短期教育プログラムでDXに必要な文化や開発プロセスのABC(基礎)を疑似体験し、IT開発者と運用者の相互理解を深めることができる「DevOps-ABC」。今後もNAiSの研修カリキュラムに積極的に活用されていくことになりそうです。

顧客プロフィール

アサヒビジネスソリューションズ株式会社

設立:1988年4月

資本金:1億1,000万円

従業員数:145名(2021年4月1日現在)