現場のチーム開発につなげる模擬開発プロジェクト
当事者意識が支える「デジタル人材」への一歩

そして2022年度からは、技術のアウトプットを目的とした模擬開発プロジェクトをカサレアルと共に実施しています。クレディセゾンにとってDX推進とは何を指すのか、その取り組みの一環であるスキルチェンジ研修受講者の今の様子や、模擬開発プロジェクトのねらいや期待することなどをお伺いしました。

お話を伺った方

CSDX推進部
テクノロジーセンター センター長
藤野 丈二 さん
CSDX推進部
テクノロジーセンター 課長
長谷 真一 さん

目次

EX向上×CX向上=DX推進

DXを進める中で我々は、CX(※1)とEX(※2)の2つの側面を達成してこそDXであると考えています。

その教育としては、研修会社であるカサレアルに丸投げするのではなく、私達が必要なことを伝え、それに応じていただけているということに価値があると考えています。

テクノロジーセンターもチームが発足して4年が経ち、人数もそれなりの規模になってきました。

チームは社内公募で手を挙げて異動してきたメンバーと、中途採用で入社した経験知識のあるエンジニアメンバーで形成されています。

すごく実力がある中途入社のエンジニアであっても、社内の用語や流儀がどうしても壁になるケースが散見されますが、我々の場合、これまで他部門でさまざまな業務経験を積んだ多様なキャリアのメンバーがいて、業務を熟知したメンバーが実際のシステム構築に携わっています。

なので、中途入社のエンジニアが知らないことも、隣で働いているメンバーと知識の補完をしあいながらやっていけることは大きなアドバンテージとなっており、現場に寄り添った形でDXを推進できていると自負しています。

藤野さん

(※1:CX…Customer Experienceの略。顧客体験。)

(※2:EX…Employee Experienceの略。従業員体験。)

DXを語る際、CXを話題にする企業はありますが、EXを語る企業は少ないと感じます。

EXを高めることによってCXにも繋がる、というようなお考えで合っていますか?

そうですね。当社はカード会社ですので、インフォメーションセンターと呼ばれるコールセンターがあります。また、セゾンカウンターという電話だけではなく直接対面でお客様に接する業務に携わっている社員もたくさんいます。

そこが生命線といいますか、1番顧客に接している部分なわけです。

そういった業務に携わる社員にとって、使いにくいシステムがあればそれがどうしてもストレスになりますし、その上業務では様々なお客様の対応があったりと、非常に大変です。

その負担を少しでも軽減し、従業員が気持ちよくスムーズに仕事ができるようにするEXの取り組みが、結果的にCXに繋がって顧客に還元されていくと考えています。

藤野さん

デジタル人材として成長できる環境とは

DX推進においても欠かせないデジタル人材を育成するため、2020年度からカサレアルのスキルチェンジ研修を活用いただいております。

最初にスキルチェンジ研修を実施いただいた時から丸3年となりますが、受講者はプログラミング未経験だったにも関わらず、成長がすごく速いなと思います。

私はこれまで転職で複数のSIerを経験し、学生時代からプログラミングを経験していた新人も多く見てきましたが、それよりも速く、中にはリーダーをやりはじめた受講者もいます。

その要因としては、SIerと内製の違いというところで、チャレンジングなアサインができているのだと思っています。

SIerだとよく、新人の頃は実装させてもらえずドキュメントだけ作る、といった成長の伸びが悪くなる時期がありますが、我々の場合は基本的にみんながコードと向き合った仕事を継続的にできている点が、成長スピードの速い要因になっていると思います。

長谷さん

実際に自分でコードを書いてみるといった、手を動かす環境を与えてもらえるのは、だいぶモチベーションも変わってきそうですし、実務から学ぶということも多いかと思います。そういったところで成長するスピードが速くなってくるんですね。

そうですね。あとは実務で指導するエンジニアの方の質も高いので、成長が速いのだと思います。

長谷さん

“研修”と”実務”の差を埋める「模擬開発プロジェクト」

では次に、模擬開発プロジェクトについてもお伺いします。

2021年度までは、スキルチェンジ研修を活用いただいた後に、外部のエンジニアのもとで模擬開発を実施されていたと伺っています。

模擬開発プロジェクトを企画された理由や体制というところを改めてお聞かせください。

研修だけだとインプットに過ぎなくて、個人のスキルアップが中心になります。でも現場に入ったらチームでの開発となりますよね。

模擬開発の経験をしたら、その後入る現場で必要になるスキルが定着し、スムーズにプロジェクトに入れるのでは、ということを期待して企画しました。

長谷さん

やっぱりモノがゼロから完成するまでを体験するのが非常に大事だ、という思いがあります。

業務として設計からはじめ、実際に書いてみて、出来上がるまでを体験し、「我々は今何ができないのか」を知るのは、実務に入るにあたりやっておくべきことで、非常に貴重な体験なんじゃないかなと考えています。

藤野さん

カサレアルの新入社員研修でもアウトプットの部分、実際に開発する演習部分を大切にしています。インプットだけで技術の定着は難しいので、実際に開発してみるというのが重要だと思います。

そんな貴社の模擬開発プロジェクトですが、2022年度からはカサレアルが担当させていただくことになりました。外部のエンジニアのもとでも問題なく進められていたと思うのですが、 カサレアルに依頼していただいた理由をお聞かせください。

カサレアルに依頼しているスキルチェンジ研修の後、模擬開発プロジェクトをスタートするので、事前のインプット内容を知っている講師に担当いただけるのが大きなポイントです。

模擬開発中に事前に学んだことが定着しているかどうか確認しやすいですし、受講者へフォローする時も事前の研修で使用したテキストを使いながらフォローしてもらえることも大きいです。

事前に約2ヶ月間研修していただいていることもあり、コミュニケーションが取りやすい状態から開始できることも理由の1つです。

長谷さん

カサレアルとしても、スキルチェンジ研修から模擬開発プロジェクトまで一気通貫で担当させてもらったことで、事前のインプット部分で何が定着していないのか、模擬開発プロジェクト時にどうしたら適切なフォローができるかに気付けたと思っています。

事前の研修内容を知っていることや、定着度合いが分かりやすいというところは、お互いにメリットになっていた、ということですね。

模擬開発プロジェクト内容(2022年度)

【内容】

  • 提示されたテーマ「IT資産の台帳管理」をもとに、チームでシステムを設計、開発
  • 1週間を1スプリントとして、スクラムに近いインクリメンタルな開発方式
  • 開発に利用、関連するGit、Linuxについては、スプリント0で学習

【スプリント0スケジュール】

日程(4日間) 内容
1日目 キックオフ 模擬開発プロジェクト終了までの全体像の説明
2日目 Linux基本操作(講義) macOS(UNIX)の利用を想定したコマンド体系の近いLinuxの習得
3日目 Git速習(講義) チームでGitを使ったコード共有をするのに必要な考え方、操作を習得
4日目 説明、環境設定 研修の概要・進め方の説明、開発環境の設定
5日目 DB設計説明 チームで設計を進行、要所で講師から参考サイト紹介や説明を実施

【スプリント1~10のスケジュール】

【サポート体制】

≪カサレアル≫

  • プロジェクト全体の運営、調整
  • スプリント0にて「Linux基本操作」「Git速習」研修の実施
  • 立ち上がりの支援
    (各種スクラムイベントの参加、設計・仕様など技術的観点からの助言)
  • スプリントで実現する機能の詳細化
  • スプリントレビュー、ふり返りの参加、運営サポート
  • チャットツールを利用した技術面の質問対応
    (答えを提示でするのではなく、助言・解決策を共に検討する)

≪クレディセゾン≫

  • 開発環境・必要なツールの用意
  • ツール利用に向けたオリエンテーションの実施
  • 開発環境、ツールに関する質問の対応
  • 社内での開発ルールなど、現場の知見をもとに助言

両社が踏み込んでこそ生まれるシナジー

2022年度の模擬開発プロジェクトでは、カサレアルは開発プロジェクトの推進といった技術サポートに徹し、プロダクトオーナーを長谷様にご担当いただきました。サポートいただいた点が多かったと思いますが、率直なご意見やご感想をお聞かせください。

研修会社に「研修一式お願いします」と一任する会社が多い中、「我々(受講企業側)もちゃんと関わるから」と話をすると、研修会社側に嫌がられるケースもあると思うんです。

途中で口を挟まれるのは非常にやりにくいのかなと。

我々の場合のように、プロダクトオーナーとして長谷さんがいて、「この部分は御社でやってください、この部分は私達でやります」と言える座組でできること自体が、かなり珍しいケースだと思います。

他で聞いたことがなく、「本当にいいの?」と思いながらやっていました。

でもこれができないと「1から開発を経験することはできたけど、本当に欲しいもの、作りたいものじゃなかった」といった結果になりがちだと思うんです。

今回そういったことがなく、目的達成に近い方へ寄せられたのではないかという印象を受けました。

藤野さん

一任いただけるのもありがたいことですが、積極的に関わっていただき、連携してできることにもありがたさを感じています。

外部の人間が研修をやる際、社内の目がないので受講者様によってはだんだんエラくなっていってしまい、マイナスな意見ばかり出てしまうことがあるんです。

一緒のプロジェクトとしてやっていけたのは楽しかったですし、特異的な取り組みとしてできたと思います。

カサレアルとしてはいろいろとご負担をかける部分があったので、少し後ろめたさもあったのですが、プラスに捉えていただけて安心しました。

2022年度は「IT資産の台帳管理」という、実際に社内で使われることを想定したテーマ、要件で実施させていただきました。受講者様にとって馴染みのないテーマだったんじゃないかと思います。お2人から見ていて受講者様のご様子はいかがでしたか?

社内の業務をテーマにしたのは良かったのかもしれないですが、受講者としてはこれまでやってきた業務と全く関係がない、業務も用語も分からない状態での開発となってしまいましたので、大変そうでしたね。

ただ実際は、技術がまだ定着していない受講者を、周りの受講者が支えながら進めていました。絆が深まり、今も助け合いながら開発を一緒にやっているので、よくやりきったなと思います。

長谷さん

模擬開発プロジェクト終了後、それぞれの実務に入っていきますが、今回はテーマとして扱ったIT資産の台帳管理をそのまま実務として開発を進めているメンバーもいます。

現場に導入するにあたり、求められる形に直していく工程に入っています。模擬開発プロジェクトの直後からいろいろ修正して進めていました。

新人のうちに勉強すべきプログラミングやIT全般の知識習得と、クレディセゾン独自ルールの理解という2段階のハードルがあるので、その力が身につけば良いなと思います。

藤野さん

2023年度もカサレアルで模擬開発プロジェクトを担当させていただき、まさに現在進行しているところです。今年度期待する部分がありましたら教えてください。

先ほど”外部の方が研修をしていると受講者側が少しエラくなってくる”というお話がありましたが、我々はそういった場合にも「このコードはダメ」というように、はっきり指摘していただきたいです。

受講者から不満の声が出る可能性もありますけど、立場関係なく言い合えるというのが、我々チームの特徴でもあります。

一般的に”教える”というスタンスに仕事上なりがちだと思いますが、例えば指導側が間違えるケースもゼロではないじゃないですか。

そこでいろんな議論が出ることもあって、受講者にとってはそういう経験も大切だと思うので、立場関係なく、変な垣根みたいなものは感じないでやっていただきたいです。

もともと、カサレアルは他の会社と比べてそういった垣根がないのでお願いしている部分もあります。

藤野さん

その意味では、クレディセゾンの研修事務局の皆様と1つのチームとして、受講者様をどう成長させていくかという意識の部分や、運用方法などについても、前年度よりお話ができました。密にやり取りをさせていただき、カサレアルとしてもありがたかったです。

目指すは「1000人のデジタル人材」

最後に、今後注力されたい取り組みや将来的な展望について、お聞かせください。

外から見たら我々は”カード会社”のイメージが非常に強いと思いますが、ファイナンスや海外の事業など、非常に多岐にわたって活動しています。

これからDXを加速していく意味でも”IT会社”としての機能を内包した会社組織にして行きたいというのが大きな目標です。

今年度、新たな取り組みとして、IT知識のある人材の新卒採用もはじめました。

藤野さん

顧客プロフィール

株式会社クレディセゾン

設立:1951年5月1日

資本金:759億29百万円

純収益:3,226億円(2022年度実績)

事業利益:609億円(2022年度実績)

従業員数:3,966名(2022年度)